商業施設における建築物省エネ法対応

東日本大震災以降、日本のエネルギーの需給はひっ迫した状況を続けている。供給サイドでは、各地で原発の稼働差し止めが行われる中、再生可能エネルギーによる電力供給割合を高める動きが進んでいる。一方需要サイドを見ると、産業部門・運輸部門では省エネ化が進み、電力消費量が減少してきているが、建築物部門のエネルギー消費量はなかなか減少せず、むしろ増加を続けている。そういった状況で、建築物のエネルギー消費量の減少を目的として、平成27年7月建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)が制定された。

建築物省エネ法の内容は大きく2つに分けられる。一つは、平成28年4月に施行された誘導措置である。誘導措置は義務規制ではないが、建築物の新築または増築、改築修繕、空調設備等の設置改修を行う際に、その計画が一定の基準に適合している場合、「性能向上計画認定」を受けることができるという制度である。この「性能向上計画認定」を取得すると容積率の特例を受けることができまた、基準適合認定表示を掲げることができる。

 もう一つは平成29年4月に施行された規制措置であり、こちらは義務規範となっている。具体的には、300㎡以上の建築物を新築・増改築する際にその計画の届出義務が新設され、さらに、2000㎡以上の非住宅の建築物を新築・増改築する場合には、省エネ基準に適合していることの所管行政庁等による判定が必要とされることとなった。

 省エネ基準の内容としては、外皮性能(窓や外壁などの断熱性能)の評価基準と、設備機器のエネルギー消費量を評価する基準が設けられている。外皮性能の評価向上のためには、新築・増改築を行う際、連暖房負荷を軽減するような設計が求められることになろう。また、設備機器のエネルギー消費量の評価向上として、照明・空調設備の切り替え、太陽光パネルの設置によるEMSなどの導入によるエネルギー使用効率化を行うなどの対策が考えられよう。以下では、企業の省エネ対策の一例を見てみることにする。

 イオンでは建築物省エネ法の成立に先駆けて、低炭素社会、省エネルギーの実現に向けた取り組みを行っている。具体的には、店舗の照明をLEDに切り替える、空調関連機器・冷蔵冷凍ケースに省エネ機器を導入するなどにより、2020年度には、店舗でのエネルギー使用量を2010年度比50%削減するとしている。同時に、店舗への太陽光パネルの設置により、2020年までに再生可能エネルギー20万kwを創出することを目標としている。

 省エネ機器の導入には初期コストが大きくなりやすい。特にEMSを導入する場合には多くの計測器、センサーなどが必要になり、導入を検討する際のハードルとなることが多い。その場合は、省エネ補助金を活用するのも一つの方法だ。グランドプリンスホテル広島では熱源システムを更新する際に、インバータ式ターボ冷凍機及び付帯機器、インバータ式温水ポンプを導入することにより補助金を受けている。

 近年CSR、ESG、SDGsといったことが企業に求められてきている中、環境への配慮はサービス業にとっても重要な責務であるといえよう。上記の例のように商業施設やホテルにおいても建築物省エネ法の規制を守ることはもちろんのことであるが、さらにその先を行く取り組みを行うことで顧客をはじめ、ステークホルダーからの厚い信頼を得ることができるのである。

HDC編集部 志塚洋介

関連する記事

検索語を上に入力し、 Enter キーを押して検索します。キャンセルするには ESC を押してください。

トップに戻る